専門分野 損害保険(特に海上保険)契約・危機管理の理論
食の安全に関わる「ハザード」と「リスク」とは?
一言で"発がん性"といっても、本当に発がん性があるかどうかは非常に難しい問題です。そこで、その問題を国際的に評価したのが、フランスのリヨンにあるIARC(International Agency for Research on Cancer)、国際がん研究機関です。 IARCは、第2次世界大戦後、フランスのドゴール大統領が、戦争はお互い憎しみ合って敵を作ってきたが、これからは人類の共通の敵、がんに向かって、これまでの軍事費の1%を削り、その1%で国際的ながん研究機関を作ろうと提唱し設立された、WHO(世界保健機関)の外部組織です。 世界中から研究者を集めて毎年3回ほど会議を開き、さまざまなデータから発がん性を評価します。たとえば、タバコ。これは発がん性あり、といわれますよね。それは、あくまで発がんの有害性があるということを示しているだけなのです。この有害性を「ハザード」ともいいます。 ほかにも、みなさんが飲んでいるアルコールも発がんの「ハザード」になります。
山崎 洋 氏
関西学院大学理工学部
名誉教授
ナビゲーター
西澤 真理子 氏
リテラジャパン代表
東京大学農学部非常勤講師
IARCとは
国際がん研究センター( IARC :International Agency for Research on Cancer)は、世界保健機関(WHO)の外部機関。発がんのメカニズム、疫学、予防などを研究する組織で、WHOとは予算、運営面で独立した組織として1965年にフランスのリヨンに設立。
活動の一環として発がんハザードの評価委員会を開催し、その結果を公表している。
IARCがハザードを評価する対象を選択する上での大前提
1. 人が暴露されている証拠がある
2. 発がん性の証拠あるいはその疑いがある
第2章 「リスク」を判断する難しさ
「リスク」を判断する方法は
国の「リスク」評価機関からのメッセージを理解し、ご自身で「リスク」を判断するひとつの基準にする。
IARC(International Agency for Research on Cancer)、国際がん研究機関では、有害性評価である「ハザード」を、グループ分けしているとお聞きしましたが?
IARCのグループ分け
グループ1 | 人に発がん性あり |
グループ2A | 多分、人に発がん性あり |
グループ2B | 人に発がん性の可能性あり |
グループ3 | 人の発がん性についての分類が出来ない |
グループ4 | 多分、人への発がん性がない |
各グループに分類された事例
【グループ1】
・太陽光線 ・アルコール飲料 ・タバコの煙 ・ベンゼン(化学工業において基礎的な物質)
・アフラトキシン(カビ毒の一種) ・ピロリ菌 など
【グループ2A】
・ジーゼルエンジンからの排気
・ホルムアルデヒド(建築材から放出され、シックハウス症候群の原因のひとつ)
・UV-C(紫外線の一種) ・ UV-B(紫外線の一種)
・PBC(ポリ酸化ビフェニル、カネミ油症事件で知られる)
・ベンツピレン(排気ガス、タバコの煙などの中に含まれる) など
【グループ2B】
・ガソリンエンジンの排気 ・カーボンブラック(炭素の微粒子)
・アセトアルデヒド(建築材から放出され、シックハウス症候群の原因のひとつ)
・クロロフォルム など
【グループ3】
・コレステロール ・サッカリン ・茶
・リモネン(柑橘類の皮から採れる天然油) ・石灰塵 ・過酸化水素 など
【グループ4】
動物の実験では、我々が日常では摂取しないような大量の量を与えて、発がん実験を行います。それは何故かといいますと、最大限の状態でがんになれば発がんの可能性はある、すなわち「ハザード」だといえる、だからそういう実験を行うのです。 ただ、その「ハザード」の中のものを、どの程度飲んだら人ががんになるかどうか、「リスク」になるかという判断値は、一概にはいえません。たとえば、アメリカではサッカリンが多く使われていたのですが、"発がん性"があるのではないかということで実験したところ、大量摂取でラットにハッキリと膀胱がんができました。 しかし、ラットと人ではメカニズムが違うのでは、ということで、再度調べました。それで、ラットにサッカリンを飲ませたあとに膀胱の中を調べてみると、尿がたまった時にサッカリンの結晶ができて、そのザラザラの結晶が膀胱の粘膜の細胞を刺激していました。この細胞への刺激が膀胱がんの原因だとわかりました。 では、人間ではどうかと、人の尿の中にたくさんのサッカリンを入れて実験したところ、結晶はできませんでした。実は、ラットと人間の尿にアルカリ性か酸性かの違いがあって、結晶ができなかったのです。
はい。動物の実験で「ハザード」と評価しても、「リスク」そのものの評価は難しいのです。実はIARCは「ハザード」を評価していますが、「リスク」は評価していません。それには意味があります。「リスク」というのは、動物によって違うように、個人でも違います。 その国の人の遺伝子によっても違いますし、感受性でも異なります。欧米の白人は太陽光線での皮膚がんに対するリスクが高く、日本人が低いのは身近な例でしょう。ですから、「リスク」の評価というのは、その国々が、その社会が及ぼす影響も考えて総合的に評価してくださるのが正しいのです。 そこで、国のしっかりした機関が「リスク」の評価を行うということが非常に大切になってきます。たとえば、日本では、食品安全委員会という行政機関がありますし、海外でも同様な機関が存在しています。
第3章 食の安全と「リスク」
食の「リスク」とうまく付き合うには
「リスク」をゼロにすることは実際には不可能
いろいろな食品を“適量”摂取して、さまざまな情報に対して必要以上に不安がらないこと
これも難しい問題です。やはりIARC(International Agency for Research on Cancer)でも、がんの予防効果について国際的に評価しようということで、発がん性を評価するのと同じように、年2~3回集まり協議して結果を公表していました。予防効果についての研究資料があっても、先ほどのイソフラボンのように有害性も示すものがあり、その両面性が非常に難しいのです。
DX(デジタルトランスフォーメーション)推進コンサルティング 株式会社アイ・ティ・イノベーション
2013.9.11 【第12回】プロジェクト・リスクとは何か? 執筆者:工藤 武久 カテゴリー:ブログ, 新感覚プロジェクトマネジメント
タグ:リスク
【 一般的なシステム開発のプロジェクト・モデル 】
【 プロジェクト・モデルにおける問題の定義 】
< 目標(あるべき姿)> = (A)「計画で立てた現時点での成果物出来高予定」
< 現 状 > = (B)「現時点での成果物出来高実績」
< 問 題 > = (A)と(B)のギャップ
【 プロジェクト・モデルにおけるリスクの定義 】
「リスク(Risk).もし発生すれば、プロジェクト目標にプラスあるいはマイナスの影響を及ぼす、不確実な事象あるいは状態。」
<リスク(事象)の具体例> = エースピッチャーが怪我をする
<マイナスの影響> = 控えピッチャーが登板して大量失点
<プラスの影響> = 臨時登板の1年生投手が頭角を現し大活躍
<リスク(状態)の具体例> = 選手が緊張して普段の力が出せない
<マイナスの影響> = エラー続出による大量失点
<プラスの影響> = 緊張感からスイングに力が入りホームラン連発
<リスク予防(事前対策)の具体例>
・ 練習試合でのエースピッチャーの登板が過度にならないよう配慮する リスクとは
・ エースピッチャーが利き腕で重い荷物を持つことを禁止する
・ 下級生や肩の良い野手等、他のピッチャー候補を積極的に育てる
・ 選手たちに駅前で校歌を歌わせるなど、緊張状態を何度も経験させる
・ 選手たちに座禅を体験させるなど、平常心を保つ訓練をする
・ 事前に試合会場を訪れ、大声援を録音した音声をヘッドフォンで聞きながら、各選手のポジションに立ちイメージトレーニングを行う
ITリスクの本質と対応策
【前編】ITリスクとは何か? リスクの本質を見極めると対策が見えてくる」
※1 トラスト
機密性(Confidentiality)、完全性(Integrity)、可用性(Availability)だけでなく、信頼性(Reliability)、安全性(Safety)、プライバシー(Privacy)、利用用意性(Usability)などを含む広い安全性の指標。
※2 ニューディペンダビリティ
信頼性、保全性、可用性などを総合した広い意味での信頼性の概念。ディペンダビリティは、「頼りがいがある」「約束を守る」といった意味の言葉で、一般的な信頼性だけでなく、一部が壊れても残りの部分でうまく動くといった、自律的な動作概念を示したコンピューターや制御システムの用語である。
リスクという考え方が必要な理由
――先ほどおっしゃったように、安全の問題には不確実性がついて回ります。そこに対策の難しさがあると思うのですが、実際にそうした問題を、どう具体的に捉えれば良いのでしょうか?
例えば、9.11の直後に、飛行機に乗るのは怖いからと、アメリカでは都市間移動に自動車を使う人が急増しました。 ところが、それに伴い、その後1年間の交通事故死者数が前年比で1,595 人も増加したと言われています(ベルリンのマックス・ブラウン研究所、心理学者ゲルド・ギレンザーの調査結果)。この数は、9.11の不幸なフライトで亡くなった方の約6倍もの数にものぼります。 このように人間の感覚というのは、不確実性を伴うリスクに対して、正しく判断することは困難です。そのほかにも、警察に届けられている強盗の年間件数は約6,000件ですが、この数字を聞いたうえで、人質立てもこり事件と空き巣の件数を予想してもらうと、多くの人は実際とは大きくかけ離れた数字を答えます。たいてい、人質立てこもり事件は10~50件くらい、空き巣は6,000~7,000件と答える人が多いのですが、実際には前者は4件程度、後者は9万件にものぼります。
――指紋かパスワードの一致でしょうか?
「ゼロリスク」は存在しない
定量的リスク評価の必要性と多重リスク
リスクコミュニケーションの大切さ
――公開鍵暗号の問題を例にとってもそうですが、ITリスクを考える際に、多くの関与者がいる、というところが問題になりますね。
まさにそうです。そこで重要になるのが、「リスクコミュニケーション」です。リスクコミュニケーションとは、「個人とグループ、そして組織の間で情報や意見を交換する相互作用的課程である」と定義されています。 関与者同士でリスクに関連してさまざまな情報を交換して、最終的にとるべき対策を一緒に考えていくことが不可欠ということです。 これは、民主主義を支える公民権、自己決定権、知る権利、説明責任、インフォームドコンセント、情報公開等と同じ根をもつ概念と言えるでしょう。実際には、関与者すべての意見を直接聞くのは難しいでしょうから、各立場の代表としてロールプレイヤーを立ててやり取りをするといった方法が考えられます。
そもそも、不確実性を伴うリスクのような難しい問題を扱おうとすれば、関連する人たちの思いを取り入れて、 落としどころを探っていくしかほかに方法はないようにも思います。例えば、個人情報漏洩対策の場合で言えば、 経営者、顧客、従業員など多くの関与者が存在し、顧客のために個人情報漏洩対策を行うことが、逆に従業員 のプライバシーや労働環境を犠牲にして実施される場合が少なくありません。だからこそ、対策に関しては、 関与者たちが事前に合意形成をしておくことが不可欠なのです。とくに多くの企業がITシステムを抱える現代において、 企業内リスクの見直しと、関与者によるリスクコミュニケーションは必須と言えるでしょう
もう一つ、ITリスクの特徴として、「動的リスク」というものもあります。以前、あるゲーム機器メーカーの機器とソフト 対して、ハッカーが改造・ハッキングをして自由に遊べるようにしたため、メーカーがハッカーを訴えたという事件が ありました。 ところが、そのことがハッカーたちの心情を煽り、逆に攻撃が集中して事態が悪化してしまったのです。 まさに、対策をしたことがかえって逆効果になってしまった。こうなると、技術だけでリスクを回避することは不可能 です。
佐々木良一氏
東京電機大学 未来科学部
情報セキュリティ研究室 教授
1947 年、香川県生まれ。1971年、東京大学卒業。同年4月、日立製作所入社。システム開発研究所にてシステム高信頼技術、セキュリティ技術、ネットワーク管理システム等の研究開発に従事。同研究所第4部長、セキュリティシステム研究センター長、主管研究長等を経て、2001年より東京電機大学教授(現在は未来科学部所属)。工学博士(東京大学)。 著書に、『ITリスクの考え方』『インターネットセキュリティ入門』(岩波新書)、共著に、『ITリスク学』『情報セキュリティ事典』(共立出版)、『インターネットセキュリティ―基礎と対策技術』(オーム社)などがある。現在は、ITリスク学の確立と体系化に注力している。
Riskを単に危険と訳してしまうと、その一面的な意味を反映したものにとどまってしまう。上の図でみればわかるように、英語のriskという言葉には数多くの類義語があり、また分野によってriskの捉え方が異なるため、その定義は混乱をきたしてきたといえよう。たとえば、保険の世界では、insured perilは保険事故(保険金支払い対象となる事故)や担保危険(保険でカバーされる危険)と訳されたりする。また、海上保険では、maritime risk(海上危険)やperils of the seas(海固有の危険)といった表現がある。
Risk=危険?
Risk(リスク)概念の形成史が詳細に叙述されているPeter L.Bernsteinの名著“Against リスクとは the Gods : The Remarkable Story of Risk”(青山護訳、『リスク:神々への反逆』)には、リスクの語源は「勇気を持って試みる」ことで、元来受動的な意味はなく、能動的に未来を選択する意味をもつとある。語源的には、Riskとは、イタリア語のriscareに由来するという言葉で、「断崖絶壁を航行する」(navigate among the cliffs)、「危険を冒す」(run into danger)という意味をもっていたため、どう転ぶかわからないという結果の不確実性という意味合いも含まれていたと解すことができる。しかし、リスクは日本語であれ英語であれ、第一義的には「危険」を意味し、損害・損失発生の可能性というネガティブな使われ方をするのが一般的である。火災リスクや地震リスク、死亡リスクなどといえば負の結果しかもたらさないリスク(危険)とたいていの人が思うであろう。また、わが国にリスクマネジメントが紹介された頃は「危険管理」と訳されていたので、もっぱら保険でいう「純粋リスク」(pure risk)、すなわち「損害・損失のみ発生させるリスク」(loss only risk)が対象となっていた。
ところが、技術革新、企業活動のグローバル化や高度情報化社会の進展などに伴い、リスクは多様化し、リスクマネジメントの対象も損失のみをもたらす純粋リスクだけではなくなった。たとえば、「投機的リスク」(speculative risk)は、loss or gain riskと表現されることもある。Gain riskを儲かるリスクと訳してしまえば、意味不明になってしまう。投機的リスクとは、リスクをとった結果として、損失にも利得にもなりうるという意味である。株式投資を行う場合には、多かれ少なかれ利益を得たいという思いから株式を購入するはずであるが、当然ながら投資の結果がプラスになるかマイナスになるかは購入時には不確かである。その不確かさの影響がリスクである。
国際標準規格におけるリスクの定義
リスクという用語の混乱を避けるため、リスクマネジメントの国際標準化が要望される中、2002年にISO/IEC Guide 73が制定されて、リスクは「事象の発生確率と事象の結果の組合せ」と定義された。この定義において、「結果」(consequence)は好ましいものから好ましくないものまで変動する場合があるとされ、リスクは危険という用語のように好ましくない影響をもつものだけに限定されなくなった。その後、ISO内に設置されたワーキンググループが検討を重ね、2009年にリスマネジメントの指針規格であるISO31000が発行されるに至った。ISO31000では、リスクは「目的に対する不確かさの影響」(effect of uncertainty on objectives)と定義されている。この定義中の、「影響」とは、期待されていることから、望ましい方向および/または望ましくない方向に乖離することを意味し、ある目的達成のためには、おそらく望ましくない影響があると認識していても、望ましくない影響を有するリスクを積極的にとる必要もあることを示唆している。昨今の企業価値向上のためのリスクマネジメントにいうリスクとは、まさにこのような意味でリスクをとらえている。
*ISO(International リスクとは Organization for Standardizationの略称:国際標準化機構)
*IEC(International Electrotechnical Commissionの略称:国際電気標準会議)
ある学者は、crisis(危機)という用語は、現代社会においておそらくは最も誤った用いられ方をしている用語の一つであると悲観している。Crisisという用語は、ギリシャ語のχριτής-英語でjudge(判断)、criterion(基準)、discrimination(区別)など―およびκρινειυ-英語でto decide(決定する)、to separate(分離する)など―に由来する。そこから、事態が悪い方向に向かうか、快方に向かうか、事態の決定的変化を示唆する分岐点(turning point)として用いられるようになった。危機の本質は、平時の思考基準とはまったく異なる基準で対応すべき状態の生起であると考えられる。
わが国では、1995(平成7)年の阪神・淡路大震災を機に「危機管理」(crisis management)という用語が一躍注目を浴びるようになった。それ以降、危機管理という用語を様々な場面で使用され、耳目に触れない日はないといっても過言ではなかろう。危機管理という用語は、冷戦期の最も深刻な核戦争勃発の危機といわれたキューバ危機において、当時のケネディ政権下のRobert S.McNamara国防長官が演説中に“There is no longer any such thing as strategy, only crisis management.”(もはや(戦争)戦略は存在しない。これからはただクライシスマネジメント(危機管理)あるのみ)と述べた時に初めて使用されたといわれている。その後、国際政治学の分野では、危機管理の前提となる「危機」の概念に関する多くの論考が公表され、その一部は企業経営分野等の危機の概念形成にも応用されている。たとえば、危機の概念研究に多くの視座を与えた Charles F.Hermannは、危機とは、意思決定集団の最上位目標に脅威(threat)を与え、意思決定がなされる前に対応可能時間を制限し(short time response=time presure)、その発生によって意思決定集団に不意打ち(surprise)を抱かせる状況であると説いている。この危機の定義における「脅威」や「時間的制約」といった要素は、他の分野の危機の定義にも応用されている。いずれにせよ、危機とは通常とは異なるきわめて深刻な状況を指す。
平澤 敦(ひらさわ・あつし)/中央大学商学部准教授
専門分野 損害保険(特に海上保険)契約・危機管理の理論
プロが教える!第6回 お金編 資産運用におけるリスクの考え方
資産運用という言葉は幅広い意味に使えますが、ここでは資産運用=投資として話を進めます。投資とは、リターンを期待してリスクのある対象にお金を投じることです。では、リターンやリスクとはいったい何でしょうか。リターンはわかりやすいと思いますが、投資によって得られる収益のことです。100万円投資して1年後に110万円になれば、10万円、年率10%のリターンを得たことになります。
一方で、リスクは誤解されやすい言葉です。例えば、激しい運動はケガのリスクを伴う、というように、一般的には「リスク=危険」という意味で使われることが多いと思います。しかし、投資の世界では、リスクとは必ずしも危険(損失)のみを意味するのではなく、結果が不確実であることを意味しています。例えば、100万円投資したときに、1年後に110万円になるかもしれないし、120万円になるかもしれない、このようなときに、この投資にはリスクがある、と言います。逆に、100万円が1年後に確実に90万円になるという投資は、リスクゼロ(不確実性ゼロ)です(誰もこのような金融商品に投資しないと思いますが)。ですから、リスクが大きいとは、不確実性が大きい、ということを意味していて、100万円が50万円や200万円になる可能性が少なくない、という投資はハイリスクな投資と言えるわけです。
リスクとは不確実性を指しますので、ハイリスク=不確実性が大きい、つまり、リターンのブレ幅が大きいということになり、高いリターンを求めようと思えば、ハイリスクの投資を行う必要があります(ハイリスクハイリターン)。ただし、下方に大きくブレる、つまり大きな損失を被る可能性も少なくありません。一方、リスクの低い投資では、リターンのブレ幅が小さいのでハイリターンを期待することはできませんが、大きな損失も負いにくいということになります(ローリスクローリターン)。
◆リスクの大きさはどうやって測ればよいの?
投資を行う際には、このリスクの考え方が非常に重要になります。いくら儲けたい、ということを先に考えてしまう人が多いと思いますが、それよりも、いくらまでなら損しても許容できるか、を先に考えたほうがよいでしょう。投資したお金が近い将来必ず必要なもの(例えば教育資金など)であれば、許容できる損失はかなり小さなものとなるでしょう。逆に、当面使う予定のない余剰資金を投資しているのであれば、家計上はある程度の損失まで許容できるかもしれません。この場合は、精神衛生上の許容範囲を考慮する必要があるでしょう。 リスクとは
では、自分が行おうとしている投資にどのくらいのリスクがあるか、どうやって測ればよいのでしょうか。投資の世界では、リスクを標準偏差という数値で表します。いきなり数学の話になって拒絶反応を起こす方もいるかもしれませんが、ここでは標準偏差について細かく説明したりしませんのでご安心ください。
標準偏差は、結果のバラつきの大きさを表す数値です。学生の頃、テストの成績を偏差値で表していたことを覚えていると思いますが、偏差値は、標準偏差を元に計算した数値で、自分の成績が平均からどの程度離れているかを表すものです。Yahoo!ファイナンスで投資信託を検索すると、1年間のリターンと標準偏差が掲載されています。その他にもいろいろ掲載されていますが、とりあえずこの2つだけ見ておきます。リターンは、その投資信託が1年間でどれだけ(何%)リターンを得られたかを表しています。一方、標準偏差は、1年間でどれだけ(何%)価格が変動したかを表していて、標準偏差が大きいほど、価格の変動幅が大きいことを意味します。
◆標準偏差でリターンのブレ幅を予測できる
もう少し具体的に見ていきましょう。例えば、リターンが5%、標準偏差が10%という投資信託があったとします。リターン5%というのは、この投資信託に投資すると平均的には5%のリターンが期待できるということを意味します。また、標準偏差10%というのは、リターンが5%の上下10%の幅でブレる可能性があるという意味になります。つまり、下に10%ブレると「5%-10%」でマイナス5%、上に10%ブレると「5%+10%」でプラス15%となり、この投資信託のリターンは、概ねマイナス5%~プラス15%の範囲になりそうだということが予想できるというわけです。5%損することもあれば15%儲かることもありそうだ、ということですね。
ところで、標準偏差10%とは、リターンの平均から概ね上下10%の幅でブレる可能性がありそうだということを意味しますが、これがどのくらいの可能性かと言うと、約68%の確率となります。これは、統計学上の一定の前提の下でデータのバラつきを考えた場合に、平均値を中心に標準偏差の分だけ上下した範囲に約68%のデータが収まるという考え方に基づきます。先ほどの例だと、リターンがマイナス5%~プラス15%の範囲に収まる確率が約68%ということですね。
もちろん、それ以上の幅でブレる可能性もありますので、より保守的に考える場合は、標準偏差の2倍、この場合であれば上下20%のブレ幅を想定します。そうすると、統計学上、リターンがこの範囲に収まる確率は約95%となります。平均5%の上下20%ですので、95%の確率でリターンはマイナス15%~プラス25%の範囲内に収まると考えることができ、1年間で最大15%の損失を想定しておけばよいということになります。標準偏差を3倍(上下30%)すれば99.7%の確率でその範囲に収まると考えられますので、さらに確実です。
このように、標準偏差を見れば、その投資にどの程度のリスクがあるか、つまり、将来のリターンが(マイナスも含めて)どの程度の幅でブレるのかを予測することができます。投資信託への投資を考えるとき、自分が許容できる最大の損失額が、上記の考え方に基づいて計算したブレ幅の範囲に収まるかどうか、という視点で商品を検討してみてはいかがでしょうか。前回お話ししたiDeCoやつみたてNISAでは、投資信託が主な選択肢となりますので、投資に何となく不安を感じている方は、今回のお話を参考にぜひいろいろな商品を見てみてください。とは言え、あくまでも過去の一定期間のデータに基づいて計算した数値ですので、将来も必ずその状況が当てはまるとは限らないことには留意してくださいね。投資信託の評価など金融・経済の情報発信を行っているモーニングスターのサイトでは、長期間における平均リターンや標準偏差なども掲載されていますので参考にしてみてください。
なお、株式や債券の個別銘柄へ投資をしようとする場合、投資信託のように標準偏差を直接確認できるサイトなどはあまり見かけません。その気になれば自分で算出することも可能ですが、ややハードルが高いと思います。その場合は、例えば、過去10年間の値動きを見て、その期間でもっとも低い価格まで値下がりしたとした場合の損失額が許容できるかどうか、といった観点でリスクを検討してみてもよいでしょう。
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